企業家の肖像

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"企業家の肖像"は弊社ビジネススクールやコンサルティングを通して出会った優れた企業経営者に、その経営哲学や生き方の本音をインタビュー形式でお届けする企画です。

第20回 株式会社 京都製錬所 代表取締役社長 大林 智実

〒621-0125
京都府亀岡市西別院町笑路落合4-3
http://www.kyoren.co.jp/

石)本日は京都からお越しいただきありがとうございます!! よろしくお願いします!!

大林)よろしくお願いします!!

石)女性の社長さんのインタビューは今回が初めてです。はじめに後継者になった経緯からお伺いしたいと思います。以前はお兄さんが社長をされていたとお伺いしましたが、お兄さんは2代目になられるのですか?

大林)兄が3代目で、母が2代目になります。父が創業者で、母と一緒に創業しました。

石)創業されたのは何年前ですか?

大林)創業は昭和43年です。今年で50年になります。会社を設立したのがちょうど10年後の昭和53年。設立2年後に父が亡くなりまして、母が社長になりました。

石)お母様は社長を何年勤められたのですか?

大林)母が社長をやっていたのは6年くらいですね。兄が21歳の時に社長になりましたので。経営の実権は握っていましたが、社長としては退いています。

石)21歳ですか!若くして社長となるとかなり重荷ですよね。お母様は会長という形で代表取締役会長みたいな感じですかね。代表でありつつ会長でもあるという。

大林)そうですね。主に兄は工場、母は財務面の工面をしていました。

石)お兄さんは長く社長をされていたのですか?

大林)就任期間で言えば兄が一番長いです。兄が50歳の時に体を悪くして私が社長に就任したのですが、それまでは兄が社長業務をしていました。29年、約30年社長をした計算になります。

石)お兄さんのほかにご兄弟はいらっしゃいますか?

大林)私は4人兄弟の3番目で、兄と姉と弟がいます。1つ下の弟が継いでも良かったと思いますが、母の鶴の一声で私が社長を務めることとなりました。

石)弟さんではなく、女性である方を社長として指名されたということは、入社された時から後継者として期待されていた部分もあったのでしょうか?

大林)いえ、全く(笑)。私自身も3番目だったこともあり、会社は継がない、継ぎたくない、絶対に別のところで働くと思っていました。贅沢に育ててもらった親には申し訳ないですが・・・

石)ちなみに会社に入られたのは何歳の時ですか?

大林)31歳の時ですね。前の会社の仕事がハードワークで体を悪くしました。家でのんびりしていると、「家でのんびりしているぐらいやったら会社の電話番に行けー!」と言われて入社することになりました。

石)入社されてからすぐに経営に携わったのですか?

大林)いえ。産廃の資格を取るために役所との取次をしたり、顧客の管理をしていました。当時はまだPCもWindows98がやっと入ったぐらいの頃で顧客管理もできていませんでした。たまたま私がその前にしていた仕事がPC系の仕事だったので前職の経験が役立ちました。

石)前職ではどのようなお仕事をされていたのですか?

大林)観光雑誌などを手掛けていました。今で言うところのグラフィックデザイナーです。写真を加工したり文字の配置をしたりしていました。

石)全く畑違いですね(笑)

大林)本当に畑違いで・・・(笑)

石)入社しても継ごうとも思ってなかったし、一時的な働き場所として考えていたということですね。

大林)そうなんです!

石)次のご質問ですが、現在の事業についてお聞かせ願います。主にバッテリーを買い取って、再処理をして、再利用できるようにしてから、メーカーさんに販売していくということですね。

大林)はい。我々の仕事は循環型リサイクルと言われるものでバッテリー再生は70年の歴史があります。製錬には一次製錬と二次製錬がございまして、一次製錬は鉱石を溶かして一回目の製錬をします。われわれは二次製錬と言って製品の再利用をしています。

石)なるほど、製品の再利用が二次製錬になるのですね。ライバルとなる企業は多いのですか?

大林)一次・二次製錬の同業者は14社、内二次製錬の同業者は今7社しかないです。

石)それでは再利用はほぼ独占状態ということですか?

大林)そうですね。昔は北海道、九州など全国各地に製錬所があって、最盛期には25社あったんです。

石)再利用(二次)だけで?

大林)はい。

石)今は3分の1しか残っていない・・・競争が激しかったのですね。

大林)そうですね、昔は。やっぱり環境設備とか法律などが後からついてきますので、設備を整えるためのコストをかけることができなかったところは淘汰されていきました。また、後継者不足で3年前に1社倒産して現在は7社だけとなりました。

石)環境規制や後継者問題、でもそこを生き延びてきた。大したものですね。

大林)なんとか生き残りました。

石)3分の2がなくなる、なくなった方が多いわけですから。苦しかった時期もあったのでは?

大林)はい、私どもも常に順風満帆だったわけではなく、鉛の相場が大暴落して全然買っていただけない辛い時期も経験しました。ただその時に買ってもらえるような品質の鉛を作ろうと兄が納入先の品質管理に行って品質を色々研究してくれたことが今につながっていると思います。

石)納入先によって配合するものが違うのですか?

大林)そうです。アンチモン、銅、錫を何パーセント配合するといった要求されるスペックがあり、そのスペック通りに調合します。お客様は溶かして固めるだけで使用できるようになっています。

石) なるほど先方の手間が省けるということですね。純度の高い鉛を製造しているとばかり思っていました。

大林) 鉛と言ってもさまざまな種類があります。純粋な鉛は大変です。99.9999…%のソフト・レッドと言われている物は高価な機械でしないと作れません。うちはリサイクルなので使い終わったバッテリーの中身を取り出して溶融します。色んなものが混ざったものが融けて出てきます。融けて出てきた普通の粗鉛をブリオンといいます。私はカレーに例えますが、何も入っていないカレーのルウのようなものです。それを辛口や中辛に調合していくイメージです。

石)メーカーさんがすぐ使えるように、カレーのルウであるブリオンに色々味付けをしているのでロスが無いのですね。メーカーさんから有り難がられるのが想像できます。

大林)そうなんです!兄がそういうことを研究してくれたので、大変感謝しています。

石)納品先は関西が多いのですか?

大林)関西がほとんどです。会社が少ない分、棲み分けができております。売り先は数えるほどしかございません。

石)競合先はないのですか?

大林)同業者は関西に3社ありますが、作っている鉛の種類が各社違います。うちはアンチモン系の鉛。産業用バッテリー(フォークリフト、バス、トレーラー)に使われる鉛を製造しています。

石)関西にある3社はバッティングしないようになっている?

大林)例えば同業他社さんはカルシウム系の鉛を作っています。これは自動車用のバッテリーになります。

石)当然それぞれ性能や用途が違うのですよね?

大林)はい。カルシウム鉛に比べて、私どものアンチモン鉛は、安定した重金属をたくさん入れるので、寒暖差の激しいところでもバッテリーがあがりません。

石)なるほど!寿命が長くて最終の売値が高いのですね。

大林)はい。アンチモンを鉛に添加して混ぜ込まないといけません。カレーでいうとお肉ですね。ただ、アンチモンは鉛よりはるかに高いものですが・・・

石)カレーに松阪牛入れるようなものですね。

大林)はい(笑)

石)秩序があって安定感もある業界ですね。循環型社会の中にあって新規参入もない?

大林)可能性は少ないと思います。まず行政の許可はおりないですね。

石)そうなると今後もあまり大きくは変わらないということですね。

大林)そうですね。ただ変わらないからといってそこに胡坐をかいてはいけないと思っています。

石)素晴らしい心がけだと思います。さて次の質問ですが、御社の企業理念・大林社長が経営で大切にしていることについてお聞かせ願います。

大林)今大切にしているのは、従業員のことです。「誰もが欲しいと思う会社にしたい」と常々考えています。

石)勤める人もこの会社に勤めてよかった。取引先もこの会社と取引してよかった。関わる人すべてに満足を与えられる会社になりたいということですね。具体的に取り組みなどされていますか?

大林)より良い会社にするために工場をどんどん綺麗に新しく変えていく予定です。

石)設備の買換えですか。効率もあげていかないといけませんからね。

大林)はい、効率ももちろんですが、これからは労働環境の改善に取り組みたいと思っています。うちが今まで一番怠っていたことかもしれません。もちろん法律の要求事項を満たす設備は整っているのですが、従業員の労働環境が良くないためか、従業員に愛社精神が生まれていないことに危機感を感じています。

石)労働環境というと、残業時間ですか?

大林)いいえ、労働している場所の環境です。溶鉱炉のそばに長いこといると、蒸発してガス化した金属を吸い込む可能性があります。JIS規格のマスクは着用していますが、それでも鉛の粉塵を吸い込むことがある。汗をふいているうちに皮膚からも入る。手や顔についていた鉛が体内に入ってしまう可能性もあります。この環境を何とか改善できないかということで以前から工場の責任者である専務(弟)と話合いを進めてきました。手始めに、自動投入設備を導入することになりました。

石)それはどのような設備ですか?

大林)自動で溶鉱炉に材料や熱原料(コークス)を投入する装置です。今までは手動でした。

石)工場内の溶鉱炉に近づかなくて済む?

大林)近くにはいかないといけませんが、ずっといなくてもいい。しかも溶鉱炉の横にあるオペレータールームで操作することで鉛の粉塵に触れずに済みます。

石)そのあたりは行政の方で指導はないのですか?

大林)何もないです。自主的なものになります。

石)意外ですね。

大林)一応監査には来られます。もちろん、言われていることはしておりますので。

石)行政がいう最低限のことはクリアしている。ただそれだけでは不十分なので、行政が要求する以上のものをやっていこうということですか。

大林)はい。経営力向上計画の認可を受け、ものづくり補助金を申請したりはしていますが当然お金はかかります。ただ、生産効率をあげるため、そして従業員にとって働きやすい職場づくりのためには必要不可欠な投資だと考えています。

石)生産性向上も達成し、理念でもある社員が働く場所の改善にもつながるし、お客様に評価もしていただけそうですね。

大林)はい。「いい会社になったな」と言われたい一心です。

石)ご立派です。

大林)ありがとうございます。

石)労働環境の改善で社員のモチベーションの向上にもつながりそうですが、それ以外にモチベーションを上げる工夫はされていますか?

大林)勤続3・5・7・10年で金一封を出しています。

石)他に精神的なモチベーションは何かありますか?

大林)できるだけメンバーを巻き込んで仕事をするように心がけています。今回の自動投入設備でいうと設備導入のプロジェクトチームを作って勉強会を開催しています。実際に製錬課の装置を扱うのは私でも専務でもありませんので、月に2回全員揃う機会に勉強会を開催しています。

石)プロジェクトに社員を巻き込み参加意識を高めることで、やりがいを感じてもらえるといいですね。

大林)はい。

石)続いての質問です。尊敬する人はいらっしゃいますか。

大林)母親です。

石)どのような点が尊敬されていますか?

大林)やはり会社を長くやって来られた点です。社長の在位という点では兄の方が長いですが、実質という点で。

石)女性で社長業もやってきて、これまでの困難も乗り越えてこられた。どのようなタイプのお母様ですか?

大林)ガッツあるタイプです。兄弟の中でも私が一番似ているといわれます(笑)

石)それでは今後の目標と夢についてお聞かせください。社業における目標はさきほどお伺いしましたが、個人の目標としては何かありますか?

大林)あんまり欲がなくて(笑)

石)仕事が趣味という人もいますよね。

大林)従業員からも「社長って夢あるんですか」と聞かれることもありますが、その時は「掃除のおばちゃんになりたい」と答えています。社長である私が何もしなくても会社がうまくまわってくれたらいいなと思っています。

石)大分お疲れですね(笑)

大林)そうかもしれません(笑)

石)最後の質問です。大林社長にとって経営とは何ですか?

大林)「喜んでもらえるものを作っていくこと」が経営だと思っています。

石)お客様、従業員をはじめとする関係者に喜んでいただけること。企業理念でもある「誰もが欲しいと思う会社」につながっているのでしょうね。本日はありがとうございました。

大林)こちらこそありがとうございました!

聞き手 パワーザイム株式会社
代表取締役 石光仁

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