企業家の肖像

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"企業家の肖像"は弊社ビジネススクールやコンサルティングを通して出会った優れた企業経営者に、その経営哲学や生き方の本音をインタビュー形式でお届けする企画です。

大阪市北区に本社を構える株式会社フジプラスの井戸剛代表取締役社長にお話をお伺いしました。自らの仕事を「売るお手伝いをすること」と定義付け、逆風といわれる印刷業界の中で積極的に新しい時代を築こうとしている井戸社長に会社の取り組みや経営理念について語っていただきました。

第21回 株式会社 フジプラス 代表取締役社長 井戸 剛

〒530-0054
大阪市北区南森町1-2-28
https://fujiplus.jp/

石)本日はよろしくお願いいたします!!

井戸)こちらこそよろしくお願いいたします!!

石)今回で21回目のインタビューになります。ほとんどの方が2代目の方ですけれども。

井戸)はい。

石)社長は引き継がれて何年経ちますか?

井戸)社長になって10年ですね。

石) 事業を引き継ぐということは雇用責任もありますし大変なことも多いですよね。

井戸)それはもう入社した時点で腹を決めていました。

石)入社されたのは何年前ですか?

井戸)入社したのが30歳ぐらいなので20年ぐらい前ですね。

石)入社前は別のところで修行されたのですか?

井戸)入社前は銀行に居ました。私はバブルの最後の世代ですが、ドラマで見た国際金融マンに憧れていました。修行とかではなく、普通に就職活動をして働いていました。家が商売をやっていることも一切内緒でした。

石)会社を継ぐといった話は親子間で話はなかったのですか。

井戸)全く無いですね。

石)なるほど。何年銀行に勤められましたか?

井戸) 30歳ぐらいまでですね。

石)では30歳くらいの時点で会長からお話があった?

井戸)いえ、実は知らないうちに承継が完了していました。持ち株会社が出来ていまして、その持ち株会社の株主が僕でした。

石)お父様の中ではもう決めていたのですね?

井戸)そうですね、私は末っ子ですが長男でした。男は私だけでしたし社内に任せられる人も居ませんでした。持ち株会社作って、資産管理会社作って、そこの株主が100%私という状態で。そこで腹を決めたという感じですね。

石)なるほど。お膳立てされていたと…。

井戸)そうですね。銀行員としては事業承継をお客様に提案する立場でした。(笑)

石)今だとM&Aが盛んではありますけど、当時はまだ無かったですよね。

井戸)無いですね。

石)時代の影響はあるでしょうね。当時は継いで当たり前だという考え方が強かったですからね。

井戸)今みたいな感覚は無いですからね。運命ですかね。

石)大体皆さんそうおっしゃいます。

井戸)しょうがないですよね。(笑)

石)それでは次の質問です。現在の事業とサービスの内容についてですが、現在の事業は印刷業ですけれども。

井戸)はい。

石)印刷業は超逆風じゃないですか。逆風ではなく、超逆風。

井戸)そうですね。

石) そこが井戸社長の凄さと思うところですが、逆風に立ち向かうのは相当パワーがいると思います。

井戸)レッドオーシャンですからね。鮫自体が共食いしている状態です。

石)今後の業界も同じ傾向が続くとお考えでしょうか?

井戸)印刷の仕事はどんどん減っていく一方だと思います。印刷業界の売上の数字や決算の統計が毎年発表されていますが、これは元請け下請けの数字が重複して計上されているので大まかな数字しかわかりません。

石)曖昧になりますね。

井戸)はい。そこでマーケットの数字を一番に表していると考えているのがインキの消費量なんですよ。

石)なるほど。それは言えてるなぁ。

井戸)インキの消費量は嘘をつきません。平版インキと言われるオフセットに使うインキがありますが、2007年と2017年の10年間でインキの消費量が約3分の2に減っています。一方でグラビアインキと言われるお菓子の袋などの軟包材に使われるインキは数パーセントしか下がっていません。平版インキをメインで扱っている会社は特に大変な状態だと思います。

石)包装用に使われる印刷っていうのはあんまり影響を受けていない?

井戸)影響は比較的少ないですが淘汰は進んでいます。

石)淘汰が進み需給のバランスが崩れた結果、生き残った会社が残存者利益を得出している業界もあります。印刷業界はどうですか?

井戸)需要と供給のバランスは相変わらずです。需要減が続いていますね。

石)まだまだ逆転とはいかないですね。ペーパーレス化の波には勝てませんよね。

井戸)はい。供給も減っていますが、需要もそれ以上に減っています。

石)そのような大変な業界にあって御社は印刷という仕事をどのように考えていますか?

井戸)一般的には紙の上にインクを乗せるというのが印刷業の仕事だと思うんですけど。弊社では自分たちの仕事を「売るお手伝いをすること」と定義づけをしています。

石)「売るお手伝い」ですか?

井戸)はい。具体的にはお客様がエンドユーザーに辿り着くアプローチの手段を提供することになります。もちろん印刷業に携わる弊社としては紙媒体を使っていただくのが一番利益につながりますが、お客様の求める手段が紙媒体以外のもの、例えばネットや電話であってもお客様のお手伝いをすることが何よりも大事だと思っています。

石)なぜ売上が上がらない?というところで知恵を貸して欲しいところは多いと思います。従来のアプローチが通じなくなってきている昨今、どの会社に対してもお手伝いできるチャンスがありますね。

井戸)実際、売り方が悪いから売れていないっていうところは多くあります。そういうところはとりわけ狙い目だと思っています。

石)提案型印刷業という感じですかね。お客様にどういう事業ですか?と聞かれたらどのようにお答えになりますか?

井戸)それが悩ましいところです(笑)

石)もう一つ御社が特徴的なのは川上から川下まで、いわゆる代理店的な機能も備えているところだと思います。例えば百貨店の通販事業もされていますよね。通販事業を始めた経緯などお聞かせ願えますか。

井戸)通販事業は、元々は百貨店のカタログの印刷だけをしていました。川下のところで言うと製本や物流(発送)といった業務を次第に引き受けるようになりました。

石)川上の部分も同じように広げていったのですか?

井戸)はい。川上の方で言うとデザインや撮影、企画を引き受けるようになりました。さらにその先の通信販売の商品選定や仕入まで担うこととなりました。通信販売の専門商社という業態です。

石)すべて社内で完結するようになり、事業化されたわけですね。

井戸)徐々に、川上・川下に業務を拡大してきた結果ですので、いきなり全く関係のない新事業の通販を始めたという感覚はありませんでした。

石)通販事業にはライバルは多いのですか。

井戸)ライバルは多いですが、カタログの通信販売の各社と取引をさせてもらっているために、売れ筋の商品をトライアンドエラーで常に理解しているため、自ら営業活動というよりもお客様の方から声を掛けてもらうことが多いですね。追い風が吹いていると思っています。

石)そういう点でも社名やロゴマークも変わったじゃないですか。これも単なる印刷業ではないという想いがあったんでしょうね。
(平成29年10月に不二印刷株式会社を株式会社フジプラスに商号変更)

井戸)今から6年前に新しいロゴに変更しました。時を同じくして社名変更もしようかと考えましたが、時期尚早だなという感覚がありました。しかし去年、採用の時にすごくネガティブなイメージを与えてしまうと判明したので社名を変更することにしました。

石)何かあったのですか?

井戸)内定を出した大学生の親御さんから入社を断られたことがありました。印刷という社名がマイナスのイメージを与えてしまったようです。

石)そんな裏事情があったんですね。でも親御さんが「印刷」というのに抵抗があるというのはわかる気もします。そういう採用の話で言うと今年は何人入られたんですか?

井戸)今年も5人ぐらい入りましたね。今は中途採用が多くなっています。

石)グループ全体の社員数は何人ですか?

井戸)180人くらいですね。

石)180人のうち、営業と工場の人数は何人くらいですか?

井戸)3分の1が工場で3分の1がクリエイティブ、3分の1が営業プラス管理部門、それぞれ60名ですね。

石) 売上の構成比率を工場だけで賄っている売上高とクリエイティブの協力も得た売上高と分けたらどんな感じですか?

井戸) 7:3ぐらいになります。7がクリエイティブです。今後クリエイティブはクリエイティブ、印刷は印刷でそれぞれ儲かる体制を作っていきたいと思っています。

石)クリエイティブだけで完結する仕事ってあるんですか?

井戸)クリエイティブだけで完結させても良いと思っています。デザインの仕事だけ請け負って印刷の仕事が他所に行ってもいいと思っています。

石)なるほど。

井戸)工場自体も営業無しの直結。工場単体で売上を上げているような仕組みも作りだしています。あえて新しい機械を入れて今年から刷るだけの仕事も受注するようになりました。WEBを使って営業の負担を全くゼロにした状態で半導体メーカーのEMSのようなイメージで今工場をまわしだしています。

石)採算は取れるんですか?

井戸)数多く小ロットの仕事をこなすと採算は取れます。勝負は十分出来ています。

石)なるほど、既存のビジネスは既存のビジネスで採算が合うようになる。

井戸)空いた時間で付加価値の高い印刷物をしようと思っています。輪転のマーケットは過当競争になっていきますが、逆に小ロットの仕事は増えていくので、そこに対応して行こうという感じですね。

石)なるほど。例えばチラシは減ることはあっても無くなることはないですもんね。

井戸)はい。

石)では次の質問ですけれど、社長ご自身の経営理念ないしは経営で大切にしているものは何かございますか?

井戸)大切にしているのは、失敗を恐れずチャレンジすることです。リスクを負わなければこのマーケットではやっていけないと思いますので。

石)そしたら銀行説明とか結構気を付けてやっておられる?まあ社長ご自身が銀行出身だから彼らが何を気にしているか解るでしょうけれども。

井戸)彼らをうちの全社員が参加する年に1度の会議に来ていただいています。今年はこうするって方針と方針を掲載した冊子をお渡しすると彼らは会社や私達を取り巻くマーケットについてすごく理解をしていただけるんです。そうすると弊社への愛着も沸いてくるかなと思っています。

石)資料を貰うから稟議書も書きやすいですよね。

井戸)確かにそうですね(笑)。方針や取組みは、彼らはもう解っていると思っています。ですので、もう最終結果はこうでしたっていう話くらいしかしませんね。

石)なるほど。それも一つのやり方ですよね。

石)続いての質問です。教育の基本的な考え方をお聞かせ願えますか。

井戸)教育にはお金をかけて試行錯誤をしています。特に意識をしていることはコミュニケーションを取りやすい環境を作り出すことです。

石)コミュニケーションが発生する場が生まれるということでしょうか?

井戸)はい。表向きは知識面での研修ですが、受講するメンバーを工夫したり、わざと宿泊したりとか、コミュニケーションが発生しやすい環境を意識して作っています。例えば入社前の内定者を集めての研修は総務を使わずに4年目の社員に企画や講師をさせる。職場もバラバラでコミュニケーションをとる機会も少なくなってきている入社4年目の彼らにとっていいコミュニケーションの場だと思います。

石)社内で教育する体制ができているということですよね。素晴らしい。

井戸)研修の内容に対しては何も口出しはしません。仕組みとして予算を組んで目標を与えると積極的に取り組んでくれます。その他はマネージャーになるタイミングで外部講師を呼んできて半年くらい研修をしたり。さらに必要に応じて、スポットスポットで必要な研修に行ってもらっています。

石)理念教育的なものはありますか?

井戸)自社の中でしていますね。クレドから始まって・・・

石)クレドやりだしたのは何年くらい前ですか?

井戸)はじめたのは私が社長になった時からなので、10年くらい前ですかね。

石)幹部の行動の変化の実感はありますか?

井戸)実感はあります。幹部もほとんど変わりました。私は成長社会と成熟社会では考え方が違うと思っています。成長社会は正解があるので、カリスマ的な人間がいたら言われた通りのことをしていればよい。一方で成熟社会になると世の中が多様化しているので正解がない。お客様の求めることも違います。方向性だけ合わせた状態でどのように動いていくべきか、自分たちで判断しなければならない。判断の基準はクレドを通じて伝えることができたと思います。

石)どうしても時代の影響がありますよね。

井戸)はい。

石)今の幹部は社長が直接指導された方がほとんどですか。

井戸)それが多いです。

石)代替わりにあたって軋轢はありませんでしたか。こういう仕事をしているので結構ストレスが生まれるケースを見てきたので。

井戸)それはみなさんのサポートでどうにか出来たのかと思います。会議や組織もだいぶ変わりました。

石)さすが、井戸社長といったところですね。さて、続いての質問です。社員のモチベーションを上げるためにしていることは何かございますか?

井戸)色んな仕組みを入れていますね。

石)平均年齢は若いですよね。

井戸)30代半ばくらいです。

石)昔だったら社員旅行とか飲み会とかありました。今の若い子に受け入れられないかもしれませんが・・

井戸)うちはわざとやっています。

石)社員旅行の参加率はいかがですか?

井戸)80~90%ですね。

石)いい雰囲気ですね。

井戸)社員旅行は全員が参加しやすいように2コース+1コース作りました。2コースは全く同じ行程で1泊2日。家庭の事情で日帰りしかできない人のために日帰りのコースも作りました。

石)180人で参加したら結構大変ですね。

井戸)バス何台かですね。数年に一回しか行きませんけど。他にもコミュニケーションをとれる仕組みをあちこちに入れています。

石)例えば?

井戸)社員全員の会議の後は絶対に懇親会をします。年に数回は懇親会半分、仕事半分のようなイベントを入れたり。仕事以外で接点を取れる環境づくりを意識しています。

石)仲間意識が育まれているということでしょうね。

井戸)そうですね。

石)今、中小の課題の一つはジェネレーションギャップを感じるということ。飲み会に誘っても若い人がこない。コミュニケーションが育たずいつの間にかやめるパターンが多い。おっちゃんたちだけで盛り上がるケースも多いようですね。

井戸)おっちゃん達の方が盛り上がってしまうのは仕方ないですけどね(笑)5年前の社員旅行のコンセプトは昭和の宴会。座敷に全員並んで、部署ごとに芸をしました。若い人も芸はしてくれたのですが、一番盛り上がったのはバブル世代のおっちゃん・おばちゃんでした。これはアカンと思いました(笑)

石)若い人は嫌がったりしませんでしたか?

井戸)若い人も積極的ですよ。ハロウィンで仮装をする日もあります。デザイナーは外に出る機会が少ないので仮装したまま働くことを許可していますが、朝のミーティングでマリオが鬼太郎に怒られていたりするんです。面白いですよ。

石)面白いですね。自由な雰囲気がありますね。若い人は特に遊び的な要素も必要ですね。

井戸)若い人は進んでコミュニケーションを取ろうとはしません。でも人に見られる姿も意識しているし、コミュニケーションも実は僕たちの世代よりも欲していると思います。きっかけを作って背中を押してあげたいと思っています。

石)私のお客様で、万年最下位の支店が3ヵ月後全支店の中でトップになりました。ポイントは若い人たちに関心を持ち褒めることだとその支店長が言っていました。

井戸)若い人は金のためだけに働いている子はあまりいないのではないかという印象を持っています。もちろん最低限はいると思いますが。それ以上に周りから承認してほしいという欲を持っていると感じます。例えば人前で何かを表彰するとか。金一封もそうですが、表彰をされるということが喜ばれます。

石)褒められた経験のない子にとって誉められることはその子にとってのモチベーションになります。褒めることはお金以上の価値があるかもしれません。

井戸)そう思います。

石)続いての質問です、尊敬する人はいますか。

井戸)経営者として父はすごいなと思います。あとは同世代の経営者の友人が多いので彼らの行動や考えは取り組みを含めて勉強しています。

石)経営者としてその時代を生き抜いてきた点ですごいということですね。今後の目標はありますか?

井戸)私の使命は会社を永続的に続けるレベルにすることだと考えています。今は少しでも気を抜いたら暴風雨で飛ばされてしまう状態ですが、常に時代の変化に対応できるような会社にしていきたいです。

石)個人としては何かありますか?

井戸)もともとは50歳になったら辞めると宣言していたんですが、今のところ全然辞められそうにない。(笑)

石)辞めた後の予定はありますか?

井戸)特には考えていないですが、暇になりすぎて、何か事業をやりだすかもしれません。

石)新会社ですか、それも興味深いですね。

石)さて、続いての質問です。弊社の幹部研修にご参加いただいた感想をお聞かせください。卒業後は成長されましたか?

井戸)すごく成長したと感じています。

石)ありがとうございます。

井戸)卒業した社員は経営企画で働いています。私が感覚的にこうでは?と聞くと彼は数字的な検証をしてくれています。私にも意見をくれます。

石)所帯も大きいですので、数字の検証は重要ですね。

井戸)感覚を理詰めで検証できることがありがたいです。どうやって利益を出すか想定をし、その想定を検証する。

石)経営計画を作って管理することは御社の規模では非常に重要ですね。

石)最後の質問です。社長にとって経営とは?

井戸)難しいですね。「自分自身を成長させてくれる場」でしょうか。私は選ばれたわけでなく、宿命で社長になった。自分自身、能力があるとは思ってはいませんが、人としては前向きに成長したいと思っている。成長を実現させていただいている場所だと思います。

石)経営するといいこともありますが、困難なことの方が絶対多いですよね。

井戸)よくもまあこれだけいろんなことがあるなあと思うぐらい、いろんなことが降って湧いてきます。よくポジティブに生きてられるなと自分でも関心します。

石)困難の中で前向きに成長ができる。井戸社長らしい素晴らしいお言葉だと思います。
本日はありがとうございました。

井戸)こちらこそありがとうございました。

聞き手 パワーザイム株式会社
代表取締役 石光仁

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