企業家の肖像

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"企業家の肖像"は弊社ビジネススクールやコンサルティングを通して出会った優れた企業経営者に、その経営哲学や生き方の本音をインタビュー形式でお届けする企画です。

今回は、私が20年来のお付き合いをさせて頂いている「株式会社大新社」の代表取締役社長 長谷川 健氏をゲストにお迎えしました。出会った頃は小規模で活躍されていましたが、今や関西を代表する企業に成長されました。
長谷川社長の時流を読む鋭さといざという時の胆力がインタビューの中で読み取れると思います。又、企業人として不況に決然と立ち向かう姿勢がとても印象的です。
読みごたえのある内容です。ぜひ、ご参考にして下さい。

第7回 株式会社大新社 代表取締役社長 長谷川 健

〒532-0003
大阪市淀川区宮原3丁目5-36 新大阪トラストタワー4階
http://www.d-star.co.jp/company.html

石)長谷川社長は、大学卒業後すぐに起業されたのですね。今風で言うと「学生ベンチャー」になると思いますが、何故就職されなかったのか。また、チラシでの求人事業をされたきっかけをお聞かせ下さい。

長谷川)就職しなかったのは、人に使われたくなかったからです。
当時、昭和53年頃は、就職難だったということもありますが、親の商売もあまりうまくいっていませんでしたので、お金を儲けたいと思っていました。
そして、たまたま親戚に広告の仕事をしている人がいたことがきっかけで、父が私にこの仕事を勧めたのです。
当時は“アルバイトニュース”が創成期の頃で、勤めている人が高給をもらっているという話を聞き、“求人事業は絶対に良い”と思い、友人3人とこの仕事を始めました。父から世間の状況など良いアドバイスを受けて、3ヶ月目ぐらいからコツを覚え、半年で軌道に乗りました。父に出資してもらった300万円も半年で完済できました。

石)その時から商才がおありだったのですね。
当時は不景気だったと思いますが、「人材募集」というものはあったのですか。

長谷川)まだ「募集」という分野は未開拓でした。
また、この業界に入っている人は、所謂「一匹狼」で、適当に仕事を取ってくるという人が多かった。自分達のようにまじめにがんばるという人がいなかったので、時流に乗れたのだと思います。

石)(株)大新社の「ディースター」といえば、TV放送、駅での広告などで広く知られていますが、「ディースター」の現在の事業の特色を教えて下さい。

長谷川)「ディースター」は、メディアミックスすなわち、新聞折り込みチラシ、フリーペーパー、携帯電話、インターネットを使った求人広告です。
この4つのメディアを組み合わせているのは、「ディースター」だけで、他社では、2つないしは3つを組み合わせています。
4つのメディアをフルセットで行うことは、中高年、主婦層、フリーター、学生など、あらゆる世代層に対して集客を可能にします。これが、「ディースター」が支持されている理由です。
現在は、近畿圏約一千万世帯の新聞に毎週折り込みチラシを入れています。
関西では、毎週日曜日に求人広告が新聞のチラシとして入るということが定着していて、新聞をとらない世代の為には主要駅などにフリーペーパーの専用ラックを設けています。そしてWEBは、24時間いつでも見ることができます。

石)「ディースター」広告の成約率というのは、把握できるのですか。

長谷川)はい。紙面の6~7割は、成約しています。
その後、雇用が継続するかどうかは別の問題ですが、採用に至る確率は約7割ですから、非常に成約率の高い媒体になっています。
「ディースター」は、人材という中小企業の生命線を握っていると言えます。そして、人材が企業にとって重要なのはもちろんですが、勤める側にとっても仕事というのは、自分の人生を左右するものであり、また生活の糧ですから、以前のようにチラシの広告が低く見られるようなことは無くなりました。

石)人と人を繋いでいく。企業にとって人は生命線、従業員にとって仕事は生活の糧、これもひとつの経営理念だと思いますが、長谷川社長が経営上、最も大切にしている理念を教えて下さい。

長谷川)それは、面白く言うと「非常識経営」です。常識で考えず「逆張り」でいく。
儲ける為の経営ではなく、何の為に儲けるのか、その価値観をしっかり持つことを大切にしています。
資本主義社会では、株主の利益を第一に考えるのが常識ですが、私は、社員が幸せになることを第一義的とし、その為に利益を上げて、社会に還元するという考え方が自然であると思っています。
社員及びその家族の生活を守り、幸せにする為には、無茶な投資をしない等、余裕をもった経営をしながら、必要であれば大胆な方向転換も行う。
すべては、自分がマネージメントする集団に対してどれだけリーダーシップがとれるかにかかっています。
そして、社員が幸せになれば、その感動は必ずお客様に伝わりますから、顧客満足度を高める為には、核となる社員が満足ある集団になることが重要だと考えています。
昨夏、当社では、不景気によりボーナスを半減させましたが、一人の離脱者もでませんでした。
それは、社長としてしっかりと説明責任を果たすことで、皆でがまんをして経営を行うということを社員が理解したからです。
おそらく、これから5年間、景気は良くならないでしょう。
その間にやるべきは、良い集団をつくる事だと思っています。
皆の生活を守りながら、心を磨く。そして、思いやりのある人を強く導く。そういう足跡を残すことが人間として与えられた「仏性」でしょう。
会社は、たくさんの羊(=社員)の中に狼(=リーダー)が一匹いれば充分です。
リーダーとなる狼は、大胆さと細心さ、そして、だまされない為の邪まな気持ちをしっかり持ち、社員には良い事を行ってもらいたい。それが私の経営方針です。

石)仏も状況によっては、修羅の命を持って戦いに臨まないといけないということがありますね。奈良の東大寺の修羅像は仏の化身だそうです。

長谷川)なるほど。確かにきれい事だけでは、やっていけません。勝ち抜かないといけないですから。
それを社員に説明する時は、適者生存、雑草のように葉を広げて太陽をいっぱい浴びて一生懸命生きる、そういう者が生き残ると話しています。

石)臥薪嘗胆で時を待つということですね。

長谷川)はい。時を待ちながら日本一を目指します。そして、集団としての価値を上げる。
それは、社会から必要とされる集団になるということです。

石)今の長谷川社長のお話を聞いて思いを新たにしたことですが、利益というのは、良い仕事をしてきた、競争力が強いという証であり、将来さらに競争力を上げていくために使う費用と考えるべきです。
しかし、「利益=儲け」と考えてしまう、そこで経営者の品格がでると思いますが。

長谷川)石先生の会計の授業を受けて痛感したことですが、売上原価を最小にする努力を絶対に欠かしてはいけないと思っています。
そして、販管費の内、給料は、経費と考えるべきではありません。 人件費は、投資。利益は、未来への方向転換を即座に行なう為に必要な活力です。
そして、無借金で冬の時代に備えてしっかりと備蓄をする。その為に、原価を抑え、損益分岐点をさらに下げることを考えています。

石)売上・利益というのは、目標ではなく、結果にすぎません。
こういう活動をすれば必ず売上が上がる、それがどういう活動なのかを追求していくことがビジネスであると思いますが、いかがでしょうか。

長谷川)確かにそうですね。そして、それプラス、経営者は絶対に数字をごまかしてはいけないと思います。
数字が自分の行動結果を示しているのですから、経営者は数字と真っ当に向かい合わなければいけません。

石)ここ5年間は厳しいというお話でしたが、今後の経営戦略について、差し障りの無い範囲でお聞かせ下さい。

長谷川社長講和

長谷川)それは、「逆張り」です。今までやってきたことをすべて否定します。
具体的には、携帯のQRコードを使って紙面を一新させることを考えています。 これから大切な事は、今を戦国時代に例えたとして、少しの備蓄で5年間籠城し、守りに入るのは、愚かだと思います。
今だからこそ、門を開いて打って出る。これが、「逆張り」です。
それで失敗しても必ず授業料が経験として残ります。

石)ここ5年間、不景気関係なく、パイは小さくなるけれどもシェア率は上げていくということですね。

長谷川)はい。そして、何をするかというと売上原価を下げる。 当社の場合、原価は「紙」ですから、さらにインターネットに傾注させて、部数を減らします。

石)折り込みチラシの部数を減らすことは可能なのですか。

長谷川)可能です。そして、部数を減らすことを正直にお客様に伝え、料金を下げます。
正直に全てを公開することで、お客様は必ずついてきます。

石)人材を大切にされている長谷川社長ですが、社員教育について具体的にどのように取り組まれていますか。

長谷川)受賞の模様 当社には15の基本理念があり、それを朝礼で全員が手をつなぎ唱和しています。
そして、ひとつひとつの理念を具体的に仕事の中でどう活かしているのか、約300名の社員が10名ずつに分かれ毎朝自分の言葉で話すことで、さらに理念を深めています。
また、3ヶ月に1度、全国から社員を集めて、成績の発表、講師を招いての勉強会を行っています。
社員教育のテーマは「利他(りた)」です。
仕事を通じて我々が実現するものは、修羅のように強く、負けない心を持ちながら、人に対する思いやりや優しい眼差しを持つ。優しくなければ生きている価値は無いということです。

石)(株)大新社は、若い社員が多いですね。
平均年齢は、何歳ですか。
また、若い社員のモチベーションを上げるコツはありますか。

長谷川)平均年齢は、26~27歳、私が最年長です。
モチベーションを上げるコツは、採用です。採用の為に年に20回程講演します。
私が直接声をかけて、考え方や価値観が合う方を採用していますから、ミスマッチがありません。後は、朝礼や会社の仕組の中でモチベーションを上げていきます。
当社では、「人」が財産ですから、どんなに不景気でも採用は行います。
リストラという考え方はありません。環境的に売上を上げるのが難しいのであれば、業種、業態を変えれば良い。
我々が幸せになることを主眼としていますので、どんな仕事でも良い、根本の精神だけきちんとしていればそれで良いと思います。

石)長谷川社長が尊敬しておられる方を教えて下さい。

長谷川)石 光仁さんです。不屈の精神、そして自分なりの哲学をしっかり持っておられるところがすばらしい。
偉人で尊敬する方は何人かいますが、身近で、等身大で尊敬できる方はなかなかいません。
約20年間、姿を見てきましたが、抜群の能力、実力の持ち主だと思っています。

石)精進します(笑

長谷川)これからは、互いに大輪の花を咲かす時期に入っていますね。
これまでと同様に刺激し合っていきたいと思います。
先日、セミナーで「社長の楽しみは、何ですか。」と学生に聞かれた時、私は「生きていることだ。」と答えました。苦しいことも沢山あるけれども、それでも今、生きていることが楽しい。
今の子供達は、勇気がない、楽しくしていない。それは、親が楽しくしていないから、疲れた顔をして、夢が無いからだと思います。

石)そうですね。それでは、長谷川社長の夢は、何でしょうか。
また将来のビジョンなどもお聞かせ下さい。

長谷川) 社員すべてが、同志であり、パートナーであり、一つの目標に向かって綺麗な心を磨く。
そして、社会から「あの会社いいね。」「あの人と会ったら楽しいね。」そう言われる集団、企業を作っていきたい。それが価値ある集団だと思います。

石)仏教で「異体同心」という言葉があります。体は異なるが、心は同じ。思いをひとつに結束していく。
最初は規模が小さくても天命があれば、その規模は大きくなるかもしれませんね。

長谷川)自分を信じて、自分のやり方で反省しながら、やっていけば良いと思っています。

石)最近人間関係が殺伐とした職場が多いですね。統計では、25人に1人がうつ病だそうです。

長谷川)当社は、挨拶を大切にしています。来訪者には、皆立って挨拶をします。
それを美しい行為と思って行っています。またそれができる人しか残りません。
私も気を付けています。常に700の目が私の後姿を見ていますから。

石)座右の銘、もしくは、大切にしている言葉はありますか。

長谷川)  「従流志不変(じゅうりゅうこころざしふへん)」これは、大徳寺の僧侶の言葉で、環境の変化には従うけれども志は変えないということです。
人間は、それぞれに自分の心の踏み絵を持っていなければならない。
何があっても、それだけは踏んではいけないというものがない人は、人間として弱いと思います。

石)弊社の幹部研修についてのご感想をお願いします。

長谷川)研修を受けて、幹部ひとりひとりが、「売上原価」「販売管理」「損益分岐点利益」という言葉をしっかりと把握しました。
そして、何故自分の営業所の売上がらないのか、会社が利益を出す為には、各営業所でどこまで売上を上げなければいけないかを考えさせるようにしたところ、ボーナスを半減しても不満を言わなくなりました。

石)問題意識を共有化できたということですか。

長谷川)そうです。数字をしっかり把握することで、「自己責任」を自覚しました。
そして、「経営は、独裁である」ということが理解できるようになり、リーダーがしっかりとした考えを持たないと間違った方向に行ってしまう、そういう意識統一ができるようになりました。

石)それでは最後の質問ですが、長谷川社長にとって経営とは、一言で何でしょうか。

長谷川)人を豊かにすることです。
その為には、強くなければなりません。修羅のごとく・・・

本日は貴重なお話 誠にありがとうございました。

聞き手 パワーザイム株式会社
代表取締役 石光仁

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