企業家の肖像

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"企業家の肖像"は弊社ビジネススクールやコンサルティングを通して出会った優れた企業経営者に、その経営哲学や生き方の本音をインタビュー形式でお届けする企画です。

本日は、自転車小売業を古都京都で、運営されていらっしゃる「株式会社きゅうべえ」代表取締役の谷口創太氏にインタビューします。
京都で3店舗運営されていますが、それだけでなく、ネットによる販売も手掛けておられるのが大きな特徴です。自転車業界は、ここ数年、健康やエコブームを背景に、著しく成長している有望な業界です。しかし、競争が激化しつつあり、今後は、厳しくなっていくと予想されます。

谷口社長は30歳とたいへんお若いのですが、その若さとバイタリテイーで、どのようにチャレンジしていくのか、そのあたりを伺いたいと思います。

第9回 株式会社きゅうべえ 代表取締役社長 谷口 創太

〒612-8379
京都市伏見区南寝小屋町5番地 京都SRC6階
http://www.qbei.co.jp/

石)お忙しいところ、お時間を頂戴し、ありがとうございます。谷口さんは、30歳の若手経営者ですが、今日はいろいろお話を伺いたいと思います。
近年の若い方は親の会社を継ぐ事を嫌がる方が多いです。リスクがありますから。そんな中、谷口社長は大学卒業後お父様の自転車小売業を引き継がれましたが、就職せずに敢えて引き継いだ理由は何故ですか?

谷口)私の場合はですね。
もしかすれば日本では少数派かもしれませんが、父も祖父も商売をしていたということ。あとは田舎で育ったという事もありまして、パン屋さんとか商いをされてる方が多い環境で育ったので、商売をするのが自然だと思えたんです。
また、大企業に就職すれば安定するかもしれませんし、資金繰りで悩む事もないかもしれません。けれど、極端な話ですが他人に人生を預けると言いますか、そこにどうしても引っかかるんです。もちろん、大企業だと大きな魅力的なプロジエクトを任せてくれるかもしれませんが……。

石)なるほど。自分の力でやっていきたい、という事ですね

谷口)そうですね。自分の力で人生を切り拓いていきたいです。それならば結果がどのようになろうと納得できますし。

石)ではビジネス上での夢などはありますか?
株式上場を目指す方もいますが、社会に貢献したいという方もいらっしゃいますし、金儲けがしたいという方もいますよね。いろんな表現があると思います。

谷口)そういう意味で言えば、父の代では、法律上は会社組織でしたが、実態はまだまだ個人商店でした。
とはいえ、個人商店で良いところも悪いところもあると思いますけど、私自身は一企業として立派にしたいと思います。
そして私が常に会社に対してオーナーシップを取るということに強い拘りはなく、私よりできる経営者の方が中から、もしくは外から現れて、その過程で企業が上場することがあれば……それはそれで手段の一つで良いと思います。

石)まずは、社会に対して一定の役割を果たしたい、と?

谷口)そうです。役に立ちたいですね。自転車業界や京都の経済、場合によっては日本の経済で社会から必要とされる存在……あの会社があって良かったね、働いて良かったね、と言われるような存在になりたいですね。

石)そういう意味では、自転車は生活産業ですから社会性はありますよね。毎日乗りますし、生活を支えるサポートビジネスですものね。

石)自転車小売業の業界の現状とこれからの流れをどういうふうに予測されているかを教えて頂けますか?

谷口)業界自体は既に成熟期に入ったと思います。自転車小売業の中でも東証一部に上場するような企業が出てきたり、最近ですと異業種(例.大手小売業)から大資本が参入してきたりとか、これから、さらに寡占化の流れが進んでいくと思います。それにともない競争環境も激しくなると思っております。しかし競争が激しくなるということは我々小売店のサービスに求められるものや価格面などに対しても厳しくなるかもしれませんが、業界全体で考えると良い事なのかなと思います。
例えば、修理の価格が不透明なところなどがクリーンになるなど改善が期待できます。加えてユーザーニーズに応えた更なる店舗づくりも期待されていると思います。移動手段ではなくファッションの一部のような自転車に乗りたいというユーザーさん。また、週末のスポーツとして捉えているユーザーさん等々。自転車小売業の業態もお客様のニーズに対応して細分化されていき、その変化に対応できるところが勝ち残れると思います。

石)なるほど。業界の専門化が更に進むという予測ですね。スーパー業界と同じ道を進むかもしれませんね。
GMSから食品スーパーが派生し、コンビニが食品を置き、食品スーパーがより小さな商圏をカバーするために多店舗展開して地域密着型にまっていくという形になるかもしれないということですね。自転車もそうなるかもしれません。

石)さて、次に、株式会社きゅうべえの事業の方向性ですね。店舗の特色、取扱商品、サービス内容の三点について事業の方向性とからませながら、詳しく教えて頂けますか?

営業所

谷口)事業は大きく分けて二つ行っております。
一つは京都市内でやっている地域密着型の自転車専門店です。幸い50年以上展開させていただいております。サービス内容も当店で購入頂いた自転車に限り安全点検がずっと無料です。六か月の保障や出張修理の出張費が無料になるとかですね。

石)出張修理が無料ですか? すごいですね。

谷口)いえ、出張費用が無料なだけで修理費は頂いております(笑)

石)それはそうですよね。びっくりしました。

谷口)アフターサービスが重要と考えておりまして、ご購入頂いた商品にパンク等何かあった時きちっと対応しておりますので安心していただいています。取扱商品は一般のシティサイクルから、最近は電動自転車やカジュアルスポーツですね。プロショップで扱っているような本格的なものではなく、エントリーの方や女性の方向けの初めての一台ですね。そして子供用の自転車など幅広く扱っております。
もう一つはイー・コマスの事業を行っておりまして、こちらの対象は日本全国のお客様に質の高いスポーツサイクルのパーツをお届けしております。お客様の声を聴いていると、自転車屋さんが近くにないとか、行っても買いたい商品がないとか。また、東京の方ですと買い物に行く時間がないとか。そういうような方にご愛好頂いております。こちらの事業の目標は店舗で買うのと変わらないサービスを提供しようとしております。今も経験豊富な専門のスタッフをシフトを組んで土日祝も営業し、全て電話で対応できるようにしております。

石)次に谷口社長の経営理念をお聞かせ願いますか?

谷口)経営の姿勢としては“志を高く持つ”事をとても大切にしております。
私は人間に無限の可能性を信じてまして、サッカーでいうと本田選手など世界トッププレイヤーを目指さない限りトップになれないのと同じように、私自身も経営者として、上を目指しておりますし、エベレストを登るような気持ちで業務に取り組んでおります。

石)なるほど。そのことを社員に朝礼や会社のイベントで伝えているのですか?

谷口)はい、伝えています。事ある毎に言っています。今の日本ですと希望など持ち難いのが現状です。そんな中でも少なくともうちの社員や会社に関わる人には元気に上を目指そうと。

石)谷口社長は年齢は30歳ですよね?

谷口)はい、そうです。

石)我々の時代だとバブルを経験しています……といっても終わりかけですが。けれど一応は希望はありましたね。しかし今は閉塞感を感じます。谷口さんの世代では今の時代をどう感じていますか?

谷口)閉塞感を感じます。とりわけ、我々よりも下の世代と話していると勢いや未来に対する見方について特に閉塞感を感じますね。

石)つまり“志を高く持つ”という事はこの閉塞感を突破したいと?

谷口)突破したいですね。突破して、それこそ最初の質問に絡むのですが、少しでも会社やできたら社会を明るくしていきたいなと思います。

石)力強いですね。では次の質問に移りますが、谷口社長ご自身の社員に対する姿勢について伺いたいと思います。社員に対して人間としてどうあるべきか。この点について、どういった取組をしていますか?

谷口)まず、私自身の姿勢で言いますと、環境や他人のせいにせず、すべては自分や自分の会社の責任だというように物事を考えるようにしております。
やっぱり経営者が環境を言い訳にしてしまうと企業の成長は止まりますし、不景気でも業績を伸ばすところは伸ばしていますしね。とにかく何かあれば私の責任になります。
社員に求めるものとしましては、私が野球部だったからかもしれませんが、挨拶、感謝、礼儀をしっかりやってほしいですね。採用のときもこの部分を特に重視していまして、それはお客様に対してはもちろんですが、関係者――仕入先や土地を貸してくださっている大家さん、もしくは物流業者さんなどの関係各社の協力があって私たちの事業は成り立っています。勿論お客様が第一優先にはなりますが、関係者すべてに感謝し、それに報いなければならないと言っています。

石)店舗は二~四名で運営されておられますよね? 人が分散しているので朝礼などはしづらいですよね? 人間というのはすぐテンションが下がるので朝礼は必要だと思います。でも、場所が離れているので難しいですね。どう取り組んでいますか?

谷口)今ちょうど検討しているところですが、テレビによる会議を導入し、全店物理的に離れていても会議や朝礼を出来るようにやっていこうかなと。

石)スカイプですか?

谷口)それもありますが、最近ではテレビ会議システムも安くなりつつあるようでして。それを検討しています。顔を合わせて会議をしたいですね。

石)社長と毎日顔を合わせるというのは実はとても重要なことなんです。
相手の顔を見て話をし、報告を聞くという事は凄く重要です。自分の内からテンションが上がる人は少ないです。啓発を受けて動くのが人間なので、誰が啓発するかというとそれは社長になります。そういう意味ではテレビ会議は意味があると思います。
 規模が大きくなると一般の社員と社長は接触しづらい。直属の上司にほめられるということはもちろん嬉しいことですが、社長に直接褒められるともっとテンションあがります。社長自身の大きな仕事は啓発力だと思います。大きな目標を掲げてインスパイアできるかどうかです。

石)次に行きましょう。社員と事業目標の共有化を図るためにいろいろ取り組んでいるでしょう。社員手帳を業務管理用に使っているところもあります。 それぞれの社員のミッションを明確化するためにね。それも一つの手帳の使い方と思います。全体的な共有化を図りつつ、あなたの目標はこれなんですよ、と具体的に落とし込み、それに向かって毎日挑戦させる。何か取組んでいますか?

谷口) これはまさに今先生の力を借りながら取り組んでいる課題です。
そういう意味ではコミュニケーションの回数を増やし、四半期ごとの業績の報告や賞与の支給の面談や給与改定など。それ以外にも会う回数を増やしていきたいです。
社員の置かれている状況や若いスタッフへの伝え方、ベテランに対する伝え方などそのあたりをわかりやすい言葉に落として何度も語ろうと思っています。またその背景ですね。何故この目標を達成しなければならないのか、とかの理由を説明する事を心がけています。なかなかこちらの考え方は伝わらないですが。1/10も伝わらないのが殆どですね。
これは今後私にとっての大きな課題です。今後試行錯誤しながら取り組みたいです。

石) 僕の経験では社員とのコミニュケーションに時間を掛ける人は業績が伸びます。わりと多くの会社はそこに時間を掛けないんですね。口下手を、コミニュケーションをとらない理由にしている人もいます。でも口下手は口下手なりに時間を取って語るというのが大事です。
そこで時間をとって社員を動かせるかどうかが、リーダーシップです。業績が上がらない店舗の店長というのは部下を動かせない。どう動かすべきかを理解していない。ただ、売上と粗利だけで叱責をし、社員のやる気を削ぐ。
企業が成長するにはビジネスモデルのシャープさと体制です。社員は何をしなければならないのかを理解しているところが勝ちます。ここで優劣が分かれます。
一般的に、体制づくりには資金がかかります。情報インフラです。ここに投資できるかどうかで成長が決定します。しかしここを惜しむ企業は多い。儲けに価値を置く企業は、ここに投資しない。せっかくの儲けをなぜ、コンピューターに掛けなければならないのか、と。事業の理念が生活産業として役に立ちたいと思うのならばそのためのコストとして認識できますが、理念が金儲けなら論理的に金を掛けませんよね。

谷口) 
そうですね。情報システムは直近の売上が上がるわけでもないですし、それなら宣伝費となりますよね。

石) その差は大きいです。事業目標の共有化を図るためには基幹システムがないと駄目なんです。現場でどういうものが売れているのか。どういうものが在庫になっているのか。そういうものを掴めないと基本的な業務の在り方を改善する事が出来ません。業務と言うのはいろいろ工夫をし、その結果として商品が流れるわけです。
次にモチベーションをテーマにお話しを伺いたいと思います。社員のモチベーションを上げるために主に二通りあります。いわゆる人参ぶらさげるモチベーション。もう一つは精神的な啓発。インスパイアさせることでのモチベーション。会社は、極端に言うと、どちらかにわかれます。インセンティブ型かインスパイア型でいくか。今までの話の流れだとインセンティブについてはあまり関心がないようですね。

谷口) そうですね。インセンティブは、賞与などは業績に連動させています。
今は自転車好きのスタッフが働いてくれていまして、自転車に関係する福利厚生を充実させようと思っております。通常の価格よりも安く買える従業員割引や後は工具手当を設けたり、今年からはレースなどの出場費用を会社が負担するようにしようかなと。

石)大阪にもレースはあるんですか?

谷口)地方に多いですが、最近だとレースではない自転車のイベントは多いです。そういうところの出場支援の制度を設けています。これはたぶん人参ではないと思います。教育が非常に大事だと思っており、その一環で社内の勉強会を行っています。社内で講師を立てたり、場合によっては外部から来ていただく。もちろん資格などは会社持ちの奨励制度もあります。会社の成長もそうですが、従業員の成長にも力を入れています。なかなか後回しになってしまうところですが、ここは強い意思を持ってやる場所だと思います。社員としてもここで成長していると実感してもらえれば職場を気に入ってもらえると思いますし。

石)平均勤続年数が長いというのは一つのベンチマークになります。人とともにスキルは流れていきますので、平均勤続年数は伸ばさなければならないと思います。成長が止まっている会社は、これが短い。勤続年数が長く安定して勤められる場所は力強いものがあります。
谷口さんはまだまだこれからですが、やっている事はとても正攻法だと思います。とてもいいです。インスパイアのもとにインセンティブもちょっとだけあるというのが健全です。

谷口)インセンティブだけになると組織に歪みが出そうで……。

石)時々キャンペーンを打って、これを一番売った人に商品を賞品としてプレゼントというのはいいかも。項目を作って競い合う。なるべく即物的なお金は避けた方が良いでしょう。愉しみながら競い合うというのが上手くいきますね。
さて、次は谷口社長の尊敬している人物を教えてください。

谷口)尊敬している方は私が大学時代にインターンシップさせて頂いた、大阪のとある経営者の方ですね。
当時私が21か22の時ですか。その経営者の方の年齢はちょうど30歳くらいだったと思います。その方の鞄持ちをさせていただきました。その時に見せてもらったものですね。次代を先読みする先見性や組織を統率するリーダーシップ、意思決定の早さと行動力を身近で勉強させてもらいました。凄い迫力だったんですけど、それが目指すべき経営者の一人となっています。私ももう30歳ですが、まだまだ足元にも及んでいません。当時は本当に衝撃でした。

石)年は十歳離れていますが、三十だと超若手と言えますね。事業は何をされていたのですか?

谷口)ロジスティック関係ですね。大手企業が全盛でしたが、その後の業界動向を先読みされていて、実に的確でした。

石)私も思いますが、マーケッテイングで七割は決まりますね。さらに規模が大きくなるかどうかは体制です。
マーケッティングだけでもある程度まで行けるのですが、体制作りが下手だと駄目ですね。まずは、社員数百人が一つの壁ですね。正社員が百人くらいまではワンマンでどうにかなります。ここを超えれば二百の壁。三百の壁があります。これを超えるのは難しい。なぜかというと幹部が弱いから。有能な幹部がいないと規模は止まります。有能な幹部の数が企業の成長の制約になります。

石)座右の銘はありますか?

谷口)“有言実行”ですね。もちろんビジネスでいくら良いアイデアがあっても実行に移した上で、実際にやれば想定外の事が多く起こります。けれどやり遂げるのが大事だと思います。中途半端な状態では、失敗か成功かは判断できず、やり遂げて初めて判断できるものだと思います。

石)では俺の背中を見てついてこい、というタイプではないんですね。社員とコミュニケーションを取れば取るほどいいと思います。そういうところは成果が上がります。お喋りなくらいであり、かつ、聞き上手。これが結果的に成果が出ます。人を動かすのが上手い。人件費を有効に使う。労働生産性が高いんですね。これらを特徴としているのは社長が部下を動かすところに時間を掛けています。 さて企業規模は何処まで伸ばしていきたいですか?

谷口)漠然とした話になりますが、百店舗ですね。出来れば私の目の届かない範囲……例えば東京などに進出できるようになりたいです。体制がしっかりしてないと行けないと思いますんで、そこまでいって初めて企業として立派かなと思います。

石)さて、私どものセミナーもよく受講されてますし、コンサルも受けておられますね。何か私どもにご意見ご感想などがあればお聞かせ下さい。

谷口)先生のところのセミナー以外でもいろいろ行っています。貪欲に勉強していこうとは思っていますが、その中でも先生のセミナーは机上の空論ではなく、実際の企業経営の現場をどう使えばいいのかをイメージできます。先生の話は綿密な理論や豊富なご経験に裏付けておられます。直感的に理解できます。
先日仰った債務償還年数はすっと頭に入ってきました。売上アップやコスト削減や財務体質改善など、いわゆる枝葉の話。当然これらも大事だとは思いますが、そこではないんです。企業は永続的に発展するための土台を作るための本質に対する話が多いと思っておりまして、大変勉強になっています。いろいろな本はありますけどもなかなか経営を学ぶ場がないです。

石)それは私にとっても課題となっています。大企業には歴史がありますし、経営理論もしっかりしていますが、中小企業は歴史が短く、加えて理論的ではありません。
理論通りにやるともっと伸びるだろうに、と思いますが、結果的に埋もれるケースが多々あります。それをなくすのが私の課題です。谷口社長には是非成功していただき、私の理論の実証例になっていただきたいと思います。これからの谷口社長の成長に期待しております。

谷口)こちらこそよろしくお願いします。

本日は貴重なお話 誠にありがとうございました。

聞き手 パワーザイム株式会社
代表取締役 石光仁

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