企業家の肖像

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"企業家の肖像"は弊社ビジネススクールやコンサルティングを通して出会った優れた企業経営者に、その経営哲学や生き方の本音をインタビュー形式でお届けする企画です。

今回は、後継者ではなく久々の起業家の登場です。しかも沈滞傾向にある業界の中、急成長を遂げておられる司法書士法人さんにスポットライトをあてさせていただきました。大阪市中央区に本社を構えておられる司法書士法人おおさか法務事務所の代表社員 川原田慶太氏です。川原田氏に起業の理由、業界の今後の見通し、ならびにおおさか法務事務所の戦略について伺いました。ご期待ください。

第19回 司法書士法人 おおさか法務事務所 代表社員 川原田 慶太

〒541-0056
大阪市中央区久太郎町2-5-28恒和ビル4階
http://olao.jp/

石)本日はよろしくお願いいたします!

川原田)よろしくお願いいたします!

石)インタビューも20回近くになりますが、ほとんどが後継者へのインタビューで、起業家の方にインタビューするのは久しぶりです。早速最初の質問ですが大学卒業後、士業の世界に飛び込み独立自営の道を選んだ理由をお聞かせください。

川原田)外交官になるのが夢でした。しかし、健康上の問題から外交官試験に合格しても外交官になれないと聞かされ、また企業で勤めるのも同様に採用されないことがわかったため、独立自営の道しかないなと思ったのがきっかけです。

石)司法書士を目指したきっかけはあったのでしょうか。

川原田)大学4回生の終わりになって今から会計士や弁護士の勉強を初めても受かるかどうか不安でした。そんな時、高校・大学で同級生だった北村(副代表)が司法書士の勉強をしており、一緒にやろうと誘ってくれました。友達と勉強するのは心強いと思い勉強を始めました。消極的な理由ですね(笑)

石)独立までの経緯を教えていただけますでしょうか。

川原田)大学卒業後、八尾の事務所で勤めていました。ここで、私の師匠に出会います。司法試験の勉強のため一度事務所を辞めようと考えていたところ、私の妻が勤めていた銀行の支店関係の仕事を引き受けることになりました。師匠に仕事をお願いしようとしたところ、「君に仕事がきているから君がやらんとあかん」と言われ、結局仕事を引き受けることになりました。気付いたら独立していたという感じです。

石)世の中の求めに応じているうちに自然と独立していたということですね。

川原田)はい。八尾の師匠の事務所は将来しっかり頼む、と言われていましたので、八尾の事務所と連携を取りながら一体運営をしていました。そういう意味では純粋な起業ということではなくて、師匠の事務所を受け継いでいる、事業承継的な要素も入っているのも当社の特徴です。

石)創業時は苦労が多かったと思います。

 

川原田)勉強するつもりで事務所を離れたつもりでしたが、そんな時間はありませんでした。いきなり家賃が45万する難波の事務所を借り、スタッフも2人抱えながらスタートしました。

石)スタッフ二人でいきなり45万円の家賃!大胆なスタートですね。

川原田)はい、固定費がかかるのでとにかく営業しないといけませんでした。

石)それでは現在の事業やサービスについてお伺いします。企業向けは登記や法務サービス、個人のお客様に対するサービスは成年後見人業務が柱でしょうか。

川原田)企業法務は、登記以前の相談事から入る助言が中心です。それにプラスして、個人は相続に関するサービスですね。成年後見だけでなく、遺言、民事信託、任意後見、認知症になっていない方々の財産管理のお手伝い、老後の法的スキームのお手伝いなどが主な業務です。

 

石)業界の現状と今後についてはどのようにお考えでしょうか。会計業界はこれまで人手の作業で収益をあげてきましたが、自動化によって仕事もなくなる。護送船団方式だった昭和型のビジネスモデルが崩壊し、新しいビジネスモデルの構築が急務です。

川原田)まず不動産登記の市場が縮小しているという問題があります。会社も不動産の流通量も減っています。また、これからITのインパクトは無視できないと思います。今、完全オンライン申請が議論されています。司法書士に公証人的な役割をもたせることで、その署名をもって登記申請ができるようにするという試みです。こうした権限付与の実現までは難しいとは思いますが、完全オンライン申請が可能になれば補助者雇用の必要性は薄れます。

石)会計事務所も同じです。資格なしで勤めている人が圧倒的に多い。結果、合理化の対象となります。

川原田)今までは仕事を出してくれていた銀行も収益が圧迫されてきているなかで、リテールに力を入れざるを得なくなっています。相続でいうと遺言信託の案件は銀行自らが取りにいかなければいかない。この分野では、士業といわれる人たちは銀行との競合的関係になります。今までのお客様が競合になった構図です。ただ地銀になるとノウハウがまだないため、まずは提携した信託会社等と共同受注してノウハウ等を吸収しようとしているようです。

石)銀行は手数料で稼ごうとしているのですか?

川原田)手数料は雀の涙くらいのものですから、おそらく今はノウハウの吸収に主眼を置いているのだと思います。

石)どの業界も競争は激しくなるばかりですね。今後有望な分野はあるのでしょうか?

川原田)「成年後見」や「相続関連」の部分は有望でかつチャレンジングなマーケットだと思っています。特に「成年後見」の分野においては財産管理の点でコンフリクトをおこすため銀行が扱うことのできない分野です。ここは銀行との協業関係を築けていますので、今後が楽しみです。もう一つは「相続」、これが企業法務として事業承継やM&Aに繋がりますので今後伸びると期待しています。
「成年後見」についてですが、先日エンディングにかかわる産業博があり、80社くらい出展していたそうです。エンディングに向かう過程で健康促進を訴える業者や、投資運用のノウハウを提供するという業者さんもいる。相続になる前の段階をビジネスチャンスと見ている企業が多いということですね。

石)残される側からすれば相続対策になりますが、残す側からすると生存対策というか「どう老後を過ごすか」というほうが重要です。相続だと、財産とかそれに関わる税の話であって、当事者の気持ちはそこにはないですね。民事信託の案件は多いのですか?

川原田)民事信託に力を入れている事務所が少ないからか、ご相談は非常に多いです。親の認知能力に問題が出る前に信託をやっておこうというニーズは根強くあると感じます。最近だと、「クローズアップ現代」などで取り上げられたりと周知されてきています。

石)川原田先生がご出演されたのですか?

川原田)いいえ(笑)私も所属しているんですが、家族信託普及協会という団体がありまして、そこがメディアも含めた周知活動に積極的に取り組んでくれています。ただ、実務において受け皿になる団体がないので、大手の司法書士事務所が集まって信託制度保証協会という適正な信託スキームを金融機関中心に広めていく活動をしています。相談ベースではかなりの引き合いがありますのでニーズがあると感じています。

石)遺言書にもつながりますよね。

川原田)おっしゃる通りです。信託で相談に来られる方でも、信託まで必要なく遺言になるとか、逆に遺言で相談に来られた方に信託を勧めるとか、密接に関わっています。

石)「相続」の分野についてはいかがでしょうか?

川原田)はい。事業承継の場合は株式移転や企業分割、株式交換、ホールディングスや従業員持ち株会を作るといった話に繋がります。

石)なるほど。相続が起こる前段階として企業法務でお手伝いできることが多いということですね。

川原田)このあたりの仕事が「できる」事務所が少ないので、チャンスが多いと考えています。「できる」というのは単に登記ができるということでなく、打合せ段階から参画し、銀行をはじめとするステークホルダーの方々に様々な提案ができることを言います。会社法関連の法律や税制などの立体的な理解が必要で、まだブルーオーシャンだと思います。相続の裏返しの企業法務が面白いことになると思います。

 

石)次の質問ですが、経営で大切にしているものや企業理念についてお伺いします。理念は作っていますか?

川原田)理念は「五方よし」です。近江商人の「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」という言葉が有名ですが、それに時間軸「昔よし」、「将来よし」を加えて「五方よし」としました。

石)「昔よし」とはどのような意味でしょうか?

川原田)2つ意味があります。一つは歴史の中で今自分がここにあるのはある意味の奇跡だということ。先祖に感謝するという意味があります。もう一つは過去に起こったことに対して肯定的な評価を常に与えようということです。人の幸せは過去の事象に対する意味づけで大きく左右されます。例えば会社を首になったという事実を独立のよい機会と捉えるか否かで、今後の行動が変わります。何があったとしても、「禍福は糾える縄の如し」で、前向きに解釈してそれをバネにしていこうというメッセージを込めています。

石)素晴らしいですね。「将来よし」についても教えていただけますでしょうか。?

川原田)相続をやっているとよく感じるのですが、世代間倫理の話です。国の借金が膨らんでいますが、将来にしわ寄せをして自分たちが繁栄するかたちです。結局問題を先送りにして将来世代に責任をもたない風潮があって、それに疑問を持とうという話です。自分たちのできる「将来よし」として、子供・孫たちの世代に対して何を遺せるかを考えていきたいというメッセージです。

石)政治家に聞いてもらいたいお話ですね。(笑)

川原田)政治家になって言うべきことかもしれませんが、常にそういう意識を持っていたいと思います。

石)最近CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)という言葉が出てきました。社会が抱えている課題を解決することがこれからの企業にとって重要で、それが結果的に売上と利益につながるという考え方です。目先の利益に捉われがちな環境の中でも、このような意識を持っているのは重要ですね。

川原田)はい、われわれの事業の性質上社会性がありますので、自然と使命感を帯びています。自社のことで精一杯ではありますが・・・

 

石)では次に教育や人材育成についてお聞かせいただけますか。

川原田)今までは場当たりに対応していました。しかし今後は中期経営計画の実現に向け、それに即したキャリアプランが必要だと思います。石先生の講義を受けて、全社戦略・組織戦略が決まりはじめて人材戦略や社風戦略が決まるということを学び、骨格としての中期経営計画を立てることが大事なんだと痛感しました。

石)ありがとうございます。

川原田)また、中長期的に目指したい姿から逆算して、従業員一人ひとりのスキルギャップが見えてきました。ギャップ解消のためには資格や勉強が必要です。もちろん資格を取るにはモチベーションも大事ですので、全社を巻き込んで「スキルギャップ会議」みたいなものを実施する必要性を感じています。

石)いい取組ですね。会社の目標を達成するには、個人の能力を高めるしかありません。ドラッカーに次のような言葉があります。「経営者は、会社の目標をたて、現在の会社の位置と目標の距離を測り、それをどのような行程で進めていくかを説明できなければならない。次に、会社目標を社員個人の目標として割り当て、現在の社員能力との差を測るとともに、それをどのような方法で詰めていくかを説明しなければならない」。
企業は幹部のマネジメント能力で決定します。スキルを活かすも殺すも幹部ですからね。

川原田)仕事の能力とマネジメント能力は違います。ここが現在の課題だと思います。

石)御社のように専門性の高い仕事ほど、どうしても個人の努力に依存すると思います。また、長期間の育成期間が必要ですので生産性が上がるのには時間がかかります。組織として人に依存するシステムは弱いですからね。

川原田)辞められたらお終いですからね。

石)その通りですね。個人に依存する組織こそ個人のモチベーションが重要になると思いますが、御社のモチベーションアップの取り組みをお聞かせください。

川原田)経済的モチベーションは月並みなものしかありませんが、精神的なモチベーションも重視しないといけないと考えています。飲み会を多く開催したり、隔年ですが社員旅行に行くなどしています。普段はチーム制で地域も職種もバラバラですので、接点を多く持つように心がけています。また、自分の能力を高めたいという欲求がある人が多いので、人材投資をきちっとし、できるだけ各自のキャリア形成に沿った投資で満足してもらえるようにすることが大事だと思っています。

社員旅行の様子

 

石)教育コストこそが社員の福利厚生だと考える会社もありますね。もちろん習って終わりではなく、発揮してもらわないと困ります。教育もプランニングが大事だと思います。

石)次の質問ですが、尊敬する人はおられますか。

川原田)日露戦争で活躍した児玉源太郎さんです。長州出身、日露戦争の参謀です。もともと首相になる予定だったのに国難に臨むため、自分から2段階降格を申し出て参謀になる。実際に日露戦争で、戦局を動かしていたのはこの児玉源太郎です。一言でいうと融通無碍な人。今までの常識を覆すような戦略を発想する。そこから専門家バカになってはいけないという教訓を得ました。常識とか業界の慣習にとらわれるのが私たちにとって一番怖いことだと思っています。

石)専門家は自分で枠を作るところがありますね。

川原田)はい、融通無碍さを備えた人物でありたいと常に思います。

石)司法書士という肩書が無くてもお客様に喜んでもらうことが大事ですね。スペシャリストもゼネラリストの側面を持たないといけませんよね。

川原田)その通りだと思います。

石)それでは次に、今後の目標についてお聞かせください。

川原田)会社としては「成年後見人」の分野で業界のリーディングカンパニーになるということです。

石)個人としてはいかがでしょうか。

川原田)英語ができるようになりたいです(笑)日本の課題の一つに海外に目を向けないということがあると思います。海外にもアンテナをはっていますので外国の方とお話しする機会が多いですがコミュニケーションで苦労します。

石)ドメスティックでは面白くないですよね。力のある中小企業は海外に積極的に出ています。

石)次に弊社の計数塾を受講された感想をいただけますでしょうか?

川原田)経営を考える骨格が出来上がりました。まずビジネススケッチをして経営計画を作ってブレークダウンしていく。それが基本中の基本だということを徹底して教えていただきました。弊社から何名か受講させていただきましたが、特に計数塾を受講した者との間ではいまどこの段階の議論をしているのかが明確に共有できているので話が早くなりました。

石)ありがとうございます!! それでは最後の質問です、川原田先生にとって「経営」とは?

川原田)難しいですね質問ですね(笑)士業は個性の強い人が多いにもかかわらずやってこれたのは根底に「人が好き」というのがあると思います。人間的に好きな人や尊敬する人と一緒に事務所を盛り立てていくことが楽しいのだと思います。

石)毎日楽しいですか?

川原田)楽しいです。問題があったとして、説得するのが好きというか、同じ方向に向くように調整していくのが好きなのかもしれません。

石)素晴らしいことですね。本日はありがとうございました。

川原田)こちらこそ、ありがとうございました!

 

聞き手 パワーザイム株式会社
代表取締役 石光仁

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